幼児は文字を書きたがっています。それなのに幼児に文字を教えることを親や教師は迷っています。子育てに自信がないからでしょうか。それとも、預ぷじに文字を教えるのは罪悪だと思いこんでいるのでしょうか。こうした親や教師でもことば(日本語)は生まれたときから熱心に教えています。幼児に言葉を教えるのはよくて、文字を教えることはいけないことなのでしょうか。口をついて出る言葉も、書いたり読んだりする文字も、実はどちらも「ことば」なのです。前者を「話し言葉」、後者を「書き言葉」といいます。
言葉を覚えることは、知識や知恵を広げることにつながります。幼児が文字を知ることは、ことばを広げ、子ども自身の生活を豊かにすることにつながります。今まで家庭で幼児に文字を教えることに躊躇していたのは、文字の教え方、文字を教えることに自信がなかったからではないでしょうか。わたしたちの研究所の調査では、文字の読み書きに早く興味を持った子供はそれだけ早く「読め」て「書け」るようになるという結果が出ています。
文字を教えるのも子育てのうちなのです。幼児の生活は遊びです。子どもは遊びの中で言葉を増やし、文字を覚えていきます。親が言葉を教え、衣服の着脱やきちんとたたむことを教えるのと同じように、文字も当たり前のこととして、子育ての一つとしておしえるのがいいのです。子どもが文字を覚えるのは遊びなのです。ですから遊びのようにしながら文字を教えるのです。そうした方法が今まで工夫され、紹介されませんでした。
本書をお読みくださったあなたは、勇気と自信を持ってわが子に文字を教えることができるようになったことだと思います。幼児はお母さんと一緒に、唱えたり、読んだり、書いたりするのがうれしいのです。子どもの喜びは母親の喜びでもあります。喜びを共に味わえる親子ほど素敵なものものはありません。
本書がこうしてあなたの目に触れることができたのは、口唱法で子どもたちに文字を教えてきたたくさんの方々のお陰です。そして、本書に取り上げたたくさんの材料を提供してくださった岡田先生、本書の編集に携わってくださった国土社の丹羽直博、野口裕美両氏のお陰でもあります。こうしてたくさんの方々には本当にお世話になりました。御礼を申し上げます。
現代子供と教育研究所 下村 昇