はじめに
厚生省の全国高齢者名簿というのを見ていましたら、日本では二千年の九月までに、百歳以上になるおばあさんが初めて一万人を超えるそうです。ですから、この本が上梓されるころには長寿のおじいさんも合わせると過去最高の一万三千三十六人になっているはずです。
一方、子供はというと、その数は年々減っているようで、今や三人兄弟はめずらしく、二人、または一人っ子が増えているそうです。そうなると、昔の家庭のように、親の手が回らず上の子に下の子の面倒を見させるなどということもなくなっていくのではないでしょうか。
きめ細かいことを形容するのに「かゆいところに手が届く」ということばがありますが、まさに、最近ではかゆいところに手が届くほどの面倒の見ようで、母親が大事に大事に、至れり尽くせり、世話を焼いて育てるようになってきました。それは母と子で電車に乗っている風景でもわかります。我が家から電車で通わなければならないような幼稚園まで親が付き添っていくのです。家の近くに幼稚園がないからではありません。わが子にエリート教育を施すための努力なのです。その親にとってはこんなことは努力でもなんでもなく、親として当然のことだと考えているのかもしれません。では近くの幼稚園はどうでしょうか。園の送迎バスは当たり前の時代になりました。マンションの前には数人の親子連れがバスの来るのを待っています。きっとまだ朝ご飯の片づけもできていないのではないでしょうか。家事よりも幼稚園への送迎が優先されます。そればかりか自家用車を持つ時代になったためか、近くの幼稚園への送り迎えでさえ、自家用車でする時代になりました。
全く、おかしな時代になったものです。しかし、こんな優雅?な生活ができる親ばかりではありません。両親が共働きで、子供は適切な施設に預けて仕事が終わってから引き取りに行くというケースも多いとか。したがって、無認可の保育所も増えているそうです。そうした施設の一つで、不幸なことに幼児虐待などの事件も起きてニュースになりました。
家庭によっていろいろな事情がありますから、どちらがよいなどとはいえないことですが、はっきりしていることは一つ。親として一生の総決算は我が子のしつけ方に成功するかどうかによって決まるということですい。一身一家の名誉がどんなに大きくても、不肖の子がたった一人できれば、その名誉は根底から傷つけられてしまいます。子供一人を育てるということは、それほど影響が大きいのです。
ことに最近、暴走行為をはじめとし、少年たちによる大人顔負けの事件が世上を賑わせます。わが子が不幸にも暴行事件や殺人事件などの主犯・共犯者にならないとも限らないのです。そうした場合、加害者の少年ばかりでなく、この少年を育ててきた親の監督責任は、法とは別に「親の育て方、しつけ方」の責任として問われなければなりません。犯行を犯したのは息子であって、親ではないといって、親としての責任を免れることができるでしょうか。
人の親になるということは、これほど大きい任務を負うことになるのです。親がどれだけ子どもに影響を与えられるか、力づけてやりながら育てられるか。やはり、子どもにとって親の影響は大きなものがあります。
こうした意味から、現在子育てに苦心をしながら懸命に育てているご夫婦にとって、本書が少しでも役にたつところがあれば幸せと思います。本書を読んでくださって、一つでも二つでも「なるほど」と思ったり、「そうだ、その通りだ」と思って参考にしていただけるところがあれば幸いです。
現代子供と教育研究所・下 村 昇
目次
はじめに
1 子供との約束を破るな
2 子供から絶対の信用を得よ
3 悪い言葉を教えるな
4 よくない人と接するな
5 恐怖心を与えるな
6 褒めることを忘れるな
7 嘘を教えるな
8 教師を軽蔑させるな
9 同情心を奪うな
10 自尊心を奪うな
11 人を疑うな
12 自由は与えても放縦は許すな
13 不規律を教えるな
14 盗み心を植え付けるな
15 褒めるだけで叱ることを忘れるな
16 小さな欠点も許すな
17 秘密を持たすな
18 勤労の習慣を与えよ
19 自制心を植え付けよ
20 信じすぎるな
21 叱らないのは後悔の元
22 忍耐心を教えよ
23 祈ることを教えよ
24 金銭の使い方
25 子供は自己の所有物ではない
26 人を使うな
27 子供の宿題を手伝うな
28 親を愛する道を教えよ
29 子供を偏愛偏憎するな
30 早く望みを達せさせるな
31 子供の前で兄弟を叱るな
32 ごめんなさいといわせよ
33 父と母が意見を異にするな
34 飽きやすい習慣を付けるな
35 ノーといえる子供を
36 夫婦相和す家庭で教育せよ
37 子供に厳格すぎるな
38 子供への愛に父母の差別をつけるな
39 叱ったあとで機嫌をとるな
40 命令を撤回するな
41 洗濯は朝のうち、訓練は子供のうち
42 子供の嘘を許すな
43 早起きの習慣を
44 早く目的を持たせよ
45 親の光を子供に当てるな
46 怒りっぽい子に育てるな
47 高慢にさせるな
48 気持ちよい返事の習慣を
49 体は弱くても精神は強く育てよ
50 きらいな学科ほど勉強させよ
51 嫌いな食べ物をなく
52 家庭の趣味を子供本位に
53 生き物を愛護させよ
54 陰でも人の悪口を言わせぬ
55 食事の作法を野卑にするな
56 食膳に食い残しをさせるな
57 ものの置き場を一定に
58 子供に甘い親ばか
59 不精者に育てるな
60 家庭以外よいところはないと思わせよ
61 きちんとした身なりをさせよ
62 めったに新式に育てるな
63 やりかけた仕事を半端で終わらせるな
64 男の子には母親を尊敬させよ
65 子供に対しては夫婦協同一致たれ
66 女の子どもに父親を尊敬させよ
67 子供の不平の習慣を付けるな
68 テレビなど無選択に見させるな
69 最後のページまで使わせよ
70 人に使われる道をまず教えよ
71 親以上にせよ
72 同情心を養え
73 工夫する習慣を付けよ
74 早熟ものにするな
75 楽をさせるな
76 夜更かしをさせるな
77 今日の宿題は今日済ます
78 弁当のおかずに文句を言わすな
79 褒めるも叱るも程度もの
80 人の気心を読む道を教えよ
81 ハイと同時に腰を上げさせよ
82 弱気の子供に育てるな
83 人の好き嫌いを言わせるな
84 女の子は女の手で、男の子は男の手で
85 よき友は母親が選べ
86 貧乏を苦と思わすな
87 おばあさん子に育てるな
88 子供相応の責任を負わすべし
89 目立つ衣装や持ち物を持たすな
90 兄弟に対する道を教えよ
91 時間を守ることに厳重に
92 子供に家の職業を愛させよ
93 高価な学用品を与えるな
94 教育は広くよりも深く
95 金銭の出入は明記させよ
96 一家団欒の食卓に慣れさせよ
97 常に親と語らしめよ
98 机の引き出しとポケットを警戒せよ
99 着手した仕事を中断させるな
100 たくさん絵本を読み聞かせよう