現代子供と教育研究所・下村 昇
漢字はむずかしいもの。そう思っている人は多いようです。文字を覚えはじめた子どもにとっては、漢字もひらがなもむずかしいどころか、とてもおもしろく楽しいもののようです。それなのに子どもはひらがなで書いた本しか見せてもらえないまま大きくなります。
日本語を書くときは「漢字と仮名を交ぜて書く」ことが決まりになっていますが、こうした決まりに従って作った本を与えている親は少ないようです。あなたもひらがなだけで書かれた本を子どもに与えてはいませんか?また、子どものために、そうした本を作ろうとする出版社もありません。子どものための出版社とはいえ怠慢なことこの上なしです。
ひらがなだけで書いた日本語を五歳・六歳になるまで見せられ続けて育った子どもは、頭の中にひらがなだけが定着してしまいます。「山」は子どもにとっては「やま」ですし、「川」は「かわ」なのです。これは恐ろしいことです。せっかく幼児のころから本に親しませるのならば、正しい日本語の表記法「漢字と仮名の交ぜ書き」で書かれた本を見せて育てたいものです。そうすればどんな言葉は漢字で書くのか、それがなんという漢字なのかということをひらがなを覚えるのよりは簡単に覚えてしまいます。
「イヌ」は「いぬ」ではなくて「犬」なのです。「ハナ」も「はな」ではなくて「花」や「鼻」なのです。ひらがなで「はな」と書いたのでは「フラワー」のことなのか「ノーズ」のことなのかわかりませんが、漢字で「花」と書けば「フラワー」のことだとわかりますし、「鼻」と書けば「ノーズ」のことだとわかり、間違うことがありません。「アメ」「雨」「飴」も同様です。
この本では、幼児が日常的に耳にし、目に触れるであろう物や言葉を表す語を取り上げて、漢字で示しました。その主なものは漢数字、曜日に関する字、色,時間、方角、季節、気象など、身近な言葉ばかりです。こうした言葉をふだんの生活の中でなんの抵抗もなく使っている子どもたちです。これらの言葉は文字としてみるときも漢字の形のままで見させたいものです。こうした読書生活を重ねることによって、文字に対する興味や言葉についての関心が高まっていくのです。
ここで注意したいことがあります。それは文字の「書き」の練習についてです。この本では「口唱法」(R)という特別に子どもが練習しやすい口書き取りの方法を採用しています。しかし、書きの練習はあまり焦らないでください。「書き」の練習に入る時機は完全にその字が読めるようになり、さらに口唱法によってその字の書き順が口で唱えられるようになってからだと思ってください。